2021年秋に女子カーリングの強豪チーム「北海道銀行フォルティウス」が活動終了を発表しました。
理由は、北海道銀行のスポンサー契約が終了したためです。
それと同時に、北海道銀行は新チームとなる「北海道銀行女子カーリング部」の設立を発表。
「北海道銀行フォルティウス」のメンバーが新チームに移動する「チーム分裂」の構図となりました。
- 「北海道銀行がフォルティウスを見捨てた?」
- 「成績が悪かったからクビになった?」
- 「なぜ北海道銀行は新チームを作ったの?」
この記事では、「フォルティウスはなぜ契約は打ち切られたのか」「分裂後の両チームに何が起きたのか」についてまとめました。
北海道銀行がフォルティウスの契約を打ち切りにした理由は?
2021年10月11日に出された「フォルティウス」の公式リリースでは、以下の表現が使われています。
- 「スポンサー契約を期間満了により終了」
- 「双方合意の上での決定」
下記が公式発表の一部引用です。
北海道銀行と女子カーリングチーム「フォルティウス」は2021年11月30日(火)をもって、スポンサー契約を終了することで合意いたしました。
引用元:フォルティウス
また、北海道銀行は女子カーリング部を本年12月1日(水)付で設立いたします。
「フォルティウス」選手6名のうち、船山弓枝選手、近江谷杏菜選手、小野寺佳歩選手、吉村紗也香選手の4選手は、引き続き「フォルティウス」としてカーリング活動を継続します。
このたびのスポンサー契約終了および女子カーリング部設立については、「フォルティウス」および北海道銀行が今後の活動について協議のうえ、両者が合意したものです。
引用元:フォルティウス
契約上のルールに則った終了であり、喧嘩別れや懲罰的な打ち切りではないというのが公式な事実です。
しかし、なぜ10年間も続いた関係を、このタイミングで解消する必要があったのでしょうか?
きっかけは「北京五輪」出場権の喪失?
北海道銀行の契約終了が発表されたのは2021年10月。
同年9月に行われた「北京オリンピック日本代表決定戦」で、北海道銀行フォルティウスがロコ・ソラーレに敗れた直後のことでした。
時系列でまとめると下記の通りです。
- 2021年9月:五輪代表決定戦で敗退(五輪出場の可能性が消滅)
- 2021年10月:契約終了を発表
- 2021年11月:契約満了
ビジネスの視点で見れば、スポーツスポンサー契約においてオリンピックは最大の商品価値です。
そのオリンピック出場権を逃したタイミングが、契約見直しの大きなきっかけになったことは間違いありません。
北海道銀行はスポンサーから直営への転換した
興味深いのが北海道銀行がカーリングから撤退したのではなく、新チームを設立した点です。
旧体制は外部のクラブチーム「フォルティウス」にお金を出すスポンサー契約でした。
新体制はメンバーを銀行員として雇用し、銀行内部で「リラーズ」を運営する形をとりました。
北海道銀行側は単にお金を出すだけでなく、選手の採用・育成・強化方針を自社でコントロールできる「直営チーム」を持ったことになります。
既存のフォルティウスはすでに完成されたチームであり、全員が銀行員というわけではありません。
そこで北海道銀行は、「既存チームへの支援継続」ではなく「自前の新チーム設立」を選んだのです。
狙いは「2030年」を見据えた世代交代
当時、札幌市は2030年冬季五輪の招致を目指していました。
吉村紗也香選手らを中心とする当時のフォルティウスは国内トップクラスの実力を誇っていました。
しかし、ロコ・ソラーレに2大会連続、冬季五輪の代表の座を明け渡す形となり、メンバーもベテランの域に入る状況。
北海道銀行側が掲げた新チームのコンセプトは「若手育成」です。
今の強さよりも「4年後、8年後の可能性」に投資したのです。
将来の地元開催五輪(2030年)にピークを持っていくために、10代〜20代前半の若手選手によるチーム作り(世代交代)へ舵を切った。
これが、契約終了の最大の理由と考えます。
契約打ち切り後のフォルティウス
北海道銀行という巨大な後ろ盾を失ったフォルティウス。
残された主力メンバー(吉村紗也香、船山弓枝、近江谷杏菜、小野寺佳歩)を待っていたのは、過酷な資金集めの現実でした。
いきなり突きつけられた4000万円の資金
カーリングのトップチーム運営には、年間数千万円規模の資金が必要です。
特に世界ランキングを上げるための「海外遠征費」、そして日々の「氷上練習の環境維持費」は膨大です。
報道によると、独立直後のフォルティウスが必要とした活動資金は「年間4000万円超」とのこと。
銀行時代には当たり前のように用意されていた遠征費やユニフォーム代、スタッフの帯同費が、すべて自分たちで調達しなければならない状態になりました。
「貯金を切り崩して生活する」という報道が出るほど、崖っぷちからの再スタートでした。
「見捨てられた」という世論と、それを覆す熱意
契約終了時、SNSやファンからは「フォルティウスを見捨てるのか」「功労者に対して冷たい」といった銀行への批判的な声も上がりました。
しかし、選手たちはネガティブな発信をせず、ひたむきに強くなるための環境を求め続けました。
その熱意に応える形で、新たな支援の輪が広がります。
- 株式会社PASSPORTが運営母体となる。
- 株式会社ニューズドテックなどがトップスポンサーに名乗りを上げる。
- クラウドファンディングで、遠征費として1000万円以上の支援が集まる。
銀行のチームから、みんなで支える市民クラブチームへ。
この苦しい時期を乗り越えた経験が、フォルティウスの結束力をより強固なものにしていきました。
フォルティウスは解散を選びませんでした。
「このメンバーで五輪に行きたい」
その一心で、スポンサー営業から練習場所の確保までを自分たちで行いながら、競技力を維持しました。
このハングリー精神こそが、後に整った環境で練習する北海道銀行の新チームを凌駕する原動力となったのです。
北海道銀行は新カーリングチームを設立
一方、フォルティウスとの契約を終了した北海道銀行は、即座に新チームを立ち上げました。
豊富な資金力と安定した雇用環境を用意し、最短距離で日本一を目指すエリート育成がスタートします。
「北海道銀行Lilers(リラーズ)」誕生
2021年12月1日、契約終了の翌日に設立されたのが「北海道銀行女子カーリング部」です。
後に公募により「Lilers(リラーズ)」というチーム名がつけられました。
このチームの最大の特徴は、「選手=銀行員(行員)」であることです。
引退後のセカンドキャリアも含めて銀行が面倒を見るという、極めて安定した実業団モデルが採用されました。
徹底した「若手・才能」重視のメンバー構成
設立時のメンバーは、当時のフォルティウスから移籍した若手2名から始まりました。
- 伊藤 彩未(当時20歳/※2025年退部)
- 田畑 百葉(当時19歳)
その後、仁平美来選手、中島未琴選手、山本冴選手といった、ジュニア世代で実績のある有望株を次々と獲得。
まさに北海道の才能ある若手を集めたドリームチームの様相を呈しており、北海道銀行の狙い通りのチームとなりました。
「ベテランのフォルティウス」vs「若手の北海道銀行」というわかりやすい構図が誕生しました。
リラーズの成績は国内トップクラス
北海道銀行の狙い通り、リラーズはすぐに結果を出します。
- 2022年 日本選手権:3位
- 2024年 日本選手権:準優勝
- 2025年 日本選手権:準優勝
- 北海道選手権:3大会連続優勝
専用の練習環境と生活の安定は、若手選手の成長を加速させました。
結成わずか数年で日本選手権の決勝常連チームとなり、ロコ・ソラーレやSC軽井沢クラブと互角に渡り合う強豪へと成長しました。
銀行の育成戦略は、競技面だけを見れば成功していたと言えます。
【因縁】北海道銀行とフォルティウスの公式戦成績
チーム分裂後、北海道銀行とフォルティウスは日本選手権などの公式戦で何度も顔を合わせました。
「元スポンサー vs 元所属チーム」
「元チームメイトを含む若手エリート vs 叩き上げのベテラン」
漫画のような因縁の対決は、誰もが注目しますよね。
因縁の対決の結果は下記の通りです。
- 2024年 日本選手権:二次予選で北海道銀行が「7-5」で勝利
- 2025年 日本選手権:決勝でフォルティウスが「8-7」で勝利
2024年の日本選手権は北海道銀行が勝利
2024年の日本選手権では、北海道銀行がフォルティウスに「7-5」で勝利しています。
【日本カーリング選手権】
— 【公式】北海道銀行リラーズ (@hb_CurlingTeam) February 1, 2024
18:00〜
🆚フォルティウス
は7-5で勝利✨
しっかり粘り強い
試合ができました‼️
2日13:00〜
🆚 SC軽井沢クラブ
も全力で元気にプレイします🔥😊🔥
応援よろしくお願いします🤗https://t.co/taXjNYNg39#リラーズ#北海道銀行
この時点では、若さと勢いのある北海道銀行が、ベテランのフォルティウスを押し切る場面も見られました。
フォルティウスは2次予選リーグで2勝3敗となり、決勝トーナメントに進めず5位で大会を終えました。
一方、北海道銀行はSC軽井沢クラブに敗れましたが、準優勝という好成績を残しました。
2025年の日本選手権はフォルティウスがリベンジ成功
2025年の日本選手権で両者は決勝というこれ以上ない舞台で戦いました。
優勝チームだけが五輪代表決定戦に進めるという、事実上のラストチャンスでした。
- 北海道銀行が勝てば世代交代の完了と、銀行の方針の正しさが証明される場面。
- フォルティウスが勝てば契約打ち切りの悔し」を晴らし、自分たちの強さを証明できる場面。
結果は8-7でフォルティウスの勝利!
【日本カーリング選手権】
— フォルティウス Team Yoshimura (@h_fortius) February 9, 2025
決勝 vs 北海道銀行
8-7でフォルティウスが勝利しました🏆✨
エキストラエンドまで続く接戦となりましたが、優勝する事ができました🥇✨
沢山の温かい応援を本当に本当にありがとうございました✨✨✨
表彰式等の様子はまたお知らせします❗️#フォルティウス #JCC2025 pic.twitter.com/14iWhpmCyI
最終エンドまでもつれる死闘を制したのは、フォルティウスでした。
この瞬間、北海道銀行(リラーズ)のミラノ五輪出場の夢は消滅しました。
北海道銀行が設立した新チームの夢を絶ったのは、皮肉にもフォルティウスだったのです。
その後フォルティウスはミラノ五輪の日本代表へ
北海道銀行を破ったフォルティウスの勢いは止まりませんでした。
2025年9月、五輪代表決定戦日本選手権王者として臨んだフォルティウスは、SC軽井沢クラブやロコ・ソラーレとの激闘を制し、ついにミラノ五輪日本代表の座を確定させました。
2025年12月、世界最終予選日本代表として世界と戦い、見事に五輪出場枠を獲得。
契約打ち切りから4年。
資金難、練習環境の確保、スポンサー探し。
すべての苦難を乗り越えたフォルティウスが銀行を見返すという、これ以上ない結末を迎えました。
まとめ
北海道銀行がフォルティウスとの契約を打ち切りにした理由は、決して悪意のあるものではなく、「2030年を見据えた若手育成へのシフト」という企業の経営判断でした。
しかし、スポーツの世界において計算は往々にして情熱に凌駕されます。
- 北海道銀行:安定した環境で若手を育て、最短で強豪チームを作り上げた(戦略は優秀だった)。
- フォルティウス:安定を捨ててでも「このメンバーで勝ちたい」という執念で、技術とメンタルを磨き上げた。
結果として、ミラノ五輪の切符を掴んだのはフォルティウスでした。
「フォルティウスを見捨てた」と揶揄されることもあった北海道銀行の判断ですが、この分裂があったからこそ、フォルティウスはハングリーになり、北海道銀行リラーズという新たな強豪も生まれました。
因縁のライバル関係は、日本の女子カーリング界全体のレベルを間違いなく押し上げました。
北海道銀行はこれから楽しみなチームなので、フォルティウスと一緒に応援していきたいです。


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